膵炎と診断されたら、何から始めればいい?
通常は脂質を抑えた低脂肪食への切り替えが検討されますが、原因や併存疾患の有無によって不要なケースもあるため、まずは獣医師に相談を[12]。並行して、1回量を減らして1日複数回に分ける給餌の工夫から始めるとよいでしょう。今日からできるのは「ゴミ箱に蓋」「食卓のおすそ分け禁止」「現フードの脂質%を確認」の3つです。
膵炎(pancreatitis)とはどんな病気?
膵炎とは、本来は腸に届いてから働くはずの消化酵素が、膵臓の中で早期に誤って活性化し、膵臓自身を消化してしまう(自己消化)ことで炎症が起こる病気です。なぜこの誤った活性化が起こるかは完全には解明されていませんが、高脂肪食の摂取や高脂血症、肥満、内分泌疾患などが引き金になると考えられています[7]。膵臓は食べ物を消化する力と、血糖値を整える力をつかさどる臓器。ここで炎症が起きると、激しい痛みや嘔吐、食欲低下が現れます(急性・慢性の違いは次章で解説します)。
気づきのサイン(すぐ受診したい症状)
- 急に何度も吐く(食後だけでなく空腹時も)
- お祈りのポーズ(前足を伸ばし腰を上げる姿勢=腹痛のサイン。震えや体を丸める様子も)
- 食欲低下、ぐったりして元気がない
- 下痢(脂っぽい便、白っぽい便)、発熱、震え
※「お祈りのポーズ」は、一瞬の伸びやプレイバウ(遊びの誘い)でも似た形になることがあります。長く保持する・繰り返す・元気がない・遊びに興味を示さない場合は要注意ですが、寝起きに数秒伸びをしただけで、その後普段通り元気なら過度に心配しすぎなくても大丈夫です。
食事の見直しが中核となる理由
膵臓はリパーゼ(脂質を分解する酵素)を分泌する臓器です。脂質の多い食事はこの分泌を刺激し、膵臓の負担になりうると考えられています[6][12]。家庭の習慣の見直しは「再発リスク」で扱います。
急性膵炎と慢性膵炎、どう違う?
急性は突然の激しい症状が特徴です。一方、慢性は急性発作を繰り返すタイプに加え、はっきりした症状のないまま炎症が慢性的にくすぶり続けるタイプもあり、後者は見過ごされやすいとされています。
軽症の急性膵炎は数日〜1 週間で回復することが多い一方、入院が必要なほどの急性膵炎では生存率約 75%(致死率約 25%)と報告されています[9]。慢性膵炎は再発を繰り返すことがありますが、適切な食事管理で症状を抑えながら付き合っていける場合もあります。急性期の絶食・給餌のタイミングは入院中に獣医師が管理するため、家庭で長時間絶食させる自己判断は避け、指示に従ってください[6][8]。
慢性膵炎が進むと、糖尿病やEPI(膵外分泌不全=消化酵素が出にくくなり、下痢・体重減少が続く状態)を併発することがあります。長期フォローで早めに見つけることが大切です[7]。
血液検査の数値(cPLI)はどう読む?
動物病院で「膵臓の数値」と言われるのは、多くの場合v-リパーゼという院内検査です。v-リパーゼは、より精密な数値であるcPLI(犬膵特異的リパーゼ)とも高い相関が報告されています。犬のv-リパーゼの一般的な正常値は 10〜160 U/L で、cPLIは200 μg/L 以下が正常、400 以上で膵炎と一致する値とされます。しかしながら、膵炎は数値だけで確定診断はせず、症状や超音波などの画像所見と組み合わせて判断されます[10]。基準値や解釈は獣医師に確認しましょう。
脂質はどのくらい抑える?
通常のフードより脂質を抑えた低脂肪フードへの切り替えが基本。最適な脂質量を定めた科学的根拠は確立されておらず、具体量は獣医師が判断します。
膵炎の犬に最適な脂質量を数値で定めた科学的根拠は確立されていません[6]。高脂血症(中性脂肪が高い状態)がある場合は、さらに低脂質の設計が選ばれます[12][2]。ラベルの脂質「%」だけでは判断しきれないため、具体的な目標値は獣医師に確認を。乳脂肪・牛脂など飽和脂肪源が原材料の上位に来ないものも目安になります。
食事回数は急性期・回復期・維持期でどう変える?
少量頻回給餌が基本。回復に応じて 1 回量を増やしながら、給餌回数を段階的に減らします。具体的な回数は獣医師の指示に従います。
| 段階 | 給餌の分け方 | 意識すること |
|---|---|---|
| 急性期(発症〜数日) | 少量を頻回に | 嘔吐がなければ 48 時間以内に再開、温めて香りを引き出す[6][8] |
| 回復期(数日〜数週間) | 回数を減らし1回量を増やす | 低脂肪食を継続 |
| 維持期(再発予防) | 通常に近い回数へ(朝晩 2 回など) | 適正体重を維持(目安は BCS 4-5/9=肋骨が軽く触れ、上から見てくびれが分かる体型) |
1 日に必要なカロリーの目安は、小型犬の給餌量計算ツールやカロリー計算ガイドで体重から計算できますが、これらはあくまで目安です。体質や病態によって実際に必要な量には個体差が大きいため、体重やBCSの変化を見ながら、獣医師と相談して調整しましょう。
再発リスクで気をつけるべきことは?
気をつけたいのは家庭の生活習慣です。ゴミ漁り・残飯・おすそ分けをやめることが予防の要になります。
なかでもゴミ漁り(人間の食べ物・脂質の多い残飯)はオッズ比 13.2 倍、食卓の残り物が 2.2 倍と報告されています[3]。ミニチュアシュナウザー・ダックスフンド・ヨークシャーテリアなどは好発犬種として知られ[1][4]、過体重も負担になります。以下の家庭ルールで再発を防ぎましょう。
⚠️ 再発予防の家庭ルール
- 食卓からのおすそ分けを禁止(家族全員で徹底)
- ゴミ箱を犬が開けられない構造に(蓋付き・高い場所)
- 適正体重 BCS 4-5/9 を維持
- 定期的な検査(v-リパーゼ・cPLI・中性脂肪・コレステロール・CRPなどの血液検査、体重測定など)
- おやつは低脂肪のものを少量(ジャーキー類は避ける)
膵炎の犬が食べていい食材・避けたい食材は?
茹でた鶏ささみ・白米・かぼちゃ・さつまいも・卵白など低脂肪素材は獣医師相談で与えやすく、脂質の多い食材は避けます。
| 避けたい食材 | 具体例 | 理由 |
|---|---|---|
| 揚げ物 | 唐揚げ・天ぷら・フライドポテト | 脂質が極めて多く、膵臓への負担が大きい |
| 脂身の多い肉 | バラ肉・霜降り肉・皮付き鶏肉・ベーコン・ソーセージ | リパーゼ分泌を強く刺激 |
| 乳製品(脂質高) | バター・生クリーム・チーズ(カマンベール等) | 脂肪分が多く消化器負担も大きい |
| ナッツ類 | アーモンド・くるみ・ピーナッツ | 脂質が非常に多く膵臓に負担。とくにマカダミアナッツは犬に中毒を起こすため絶対に与えない[11] |
| 市販おやつ(高脂肪) | ジャーキー・ビスケット・揚げ菓子 | 脂質と塩分が多い |
| 人間の食べ残し | 残飯・味付き料理 | ゴミ漁りはオッズ比 13.2 倍のリスク[3] |
比較的与えやすい食品(獣医師相談で)
与えてもよいおやつの考え方
選び方次第で楽しみは残せます。1 日の総カロリーに占めるおやつは 10% 以下を目安に、低脂肪の素材を少量。市販の高脂肪ジャーキー・チーズスティック・ビスケットは避けましょう。
療法食と手作り食、どう判断する?
① 低脂肪療法食は脂質・タンパク質・繊維が精密に設計され、扱いやすいのが基本の選択肢(獣医師の指示が前提)。② 療法食+低脂肪トッピングは食いつき改善に(内容は獣医師相談)。③ 完全手作り食は素材を選べる一方、家庭で低脂肪かつ栄養バランスの整った食事を保つのは難しく、栄養学に詳しい獣医師の設計・確認が必須です。
家庭の手作り食レシピを評価した研究では、その多くが必須栄養素のいずれかで基準を下回ると報告されています[13][5]。膵炎のように厳密な脂質管理が必要な状態で、専門家の処方なしに栄養を満たすのは容易ではありません。
フード移行は 7〜30日を目安にして段階的に
新フードへの切替は、急に全量を変えると下痢や拒食、再発の引き金になります。
| 期間 | 新フード | 現行フード | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 1〜3 日目 | 25% | 75% | 少量混合で香り・味に慣らす |
| 4〜7 日目 | 50% | 50% | 便の様子・食欲を確認 |
| 8〜14 日目 | 75% | 25% | 嫌がる場合は前段階に戻す |
| 15 日目〜 | 100% | 0% | 完全切替。再発しやすい子は 30 日かけても可 |
食欲低下や軟便が出たら、一段階前に戻して 2〜3 日様子を見ましょう。詳細は手作りごはんの栄養リスク解説へ。
食欲が落ちたとき、どう工夫する?
温め・ウェット活用・少量頻回・低脂肪トッピング・食事環境の 5 つの工夫が役立ちます。
食欲低下時の 5 つの工夫
- 温める:電子レンジで 10〜15 秒、または ぬるま湯(37〜38℃)で香りを引き出す
- ウェットフード活用:低脂肪ウェットの療法食、または ドライと混ぜる
- 少量頻回給餌:1 日量を複数回に分けて胃腸負担を軽減
- 低脂肪トッピング:茹でた鶏ささみのゆで汁、加熱卵白少量、無糖・低脂肪ヨーグルト少量(必ず獣医師に相談)
- 食事環境:静かで落ち着ける場所で、痛みがあるときは無理に量を増やさず食べたがるタイミングを尊重
体重が減り続けるとき
食べているのに痩せる・脂っぽい便が続く場合は、EPI(膵外分泌不全)などの可能性もあるため早めに獣医師へ相談を。終末期で食べないときは、療法食の理想より「食べてくれるものを食べられるだけ」と QOL を優先する選択もあり、食欲増進薬を使う方法もあります。
⚠️ すぐに獣医師へ相談すべきサイン
食事をほとんど摂らない場合、膵炎の既往がある犬は半日〜1 日でも要注意、既往のない犬でも 2 日以上の絶食は速やかに動物病院へ。あわせて、頻繁な嘔吐、お腹の痛みのサイン、ぐったりして元気がない場合も受診してください。膵炎の再燃や脱水のリスクがあります。
食欲低下の全般的な原因は6 つの原因と対処法へ。
受診前に整理しておきたいことは?
フード・食事回数・体重・嘔吐の様子を記録しておくと、診察がスムーズです。
✅ 受診前チェックリスト
- 現在のフードの種類・量(パッケージ持参が理想)
- 食事の回数とタイミング、おやつの内容と頻度
- 体重の変化(過去 3 か月)
- 嘔吐の頻度・タイミング・吐物の様子
- 便の様子(脂っぽい・白っぽい・下痢の有無)
- 痛みのサイン(お祈りのポーズ・お腹を触られるのを嫌がる等)
- 過去の血液検査結果(v-リパーゼ・cPLI・トリグリセリド・コレステロール・血糖値・肝酵素・CRPなど)
- 家族の食卓からおすそ分けの有無、ゴミ箱事故の有無、服用中の薬・サプリ
よくある質問
犬の膵炎で食べてはいけないものは何ですか?
揚げ物・脂身の多い肉・バター・生クリーム・ナッツ・市販ジャーキー・チーズ(カッテージ以外)など脂質の多い食品です。これらは膵炎の有無にかかわらず、そもそもどの犬にとっても与えすぎに注意したい食品ですが、膵炎がある場合は特に厳密に避ける必要があります。家庭の食卓から落ちたものやゴミ漁りも避けましょう[3]。くわしくは本文「食べていい/避けたい食材」へ。
犬の膵炎の寿命や余命はどれくらいですか?
症状の重さで大きく異なります。軽症の急性膵炎は数日〜1 週間で回復することが多い一方、入院が必要な急性膵炎では生存率約 75%(致死率約 25%)と報告されています[9]。慢性膵炎も食事管理で長く付き合っていける場合があります。見通しはかかりつけ獣医師にご相談を。
膵炎の犬に与えてもよいおやつや卵はありますか?
脂質の少ない素材をごく少量、獣医師相談で。例:茹でた鶏ささみ少量、薄切りりんご、無糖低脂肪のヨーグルト少量、加熱した卵白少量。卵黄は避け、おやつは1 日の総カロリーの 10% 以下に。
膵炎の犬の脂質はどのくらい抑えますか?
最適な脂質量を数値で定めた科学的根拠は確立されていません[6]。通常食より脂質を抑えた低脂肪食への切り替えが基本で、具体量は獣医師が判断します。くわしくは本文「脂質はどのくらい抑える?」へ。
膵炎の犬の食事回数はどう変えればいいですか?
「少量頻回給餌」が基本です。1 回量を減らして 1 日複数回に分け、回復に応じて回数を減らします[6]。具体的な回数は獣医師の指示に従ってください。急性期の絶食・再開のタイミングは入院中に獣医師が管理します。
cPLI や リパーゼの値はどう読めばいいですか?
v-リパーゼとcPLI(Spec cPL)は膵炎診断に有用な血液検査で、v-リパーゼの一般的な正常値は 10〜160 U/L、cPLIは200 μg/L 以下が正常・400 以上で膵炎と一致する値とされます。ただし数値だけで確定診断はせず、症状や画像所見と組み合わせて獣医師が判断します[10]。くわしくは本文「血液検査の数値」へ。
療法食を食べてくれない/切り替えはどうすればいい?
まずフードを人肌程度(37〜38℃)に温めて香りを引き出すのが有効です。ぬるま湯でふやかす、ウェットに切り替える方法も。新フードへは 7〜30 日かけ 25%→50%→75%→100% と段階的に。膵炎の既往がある犬は絶食が半日〜1 日続いたら速やかに受診を。
まとめ
膵炎の食事は「脂質を抑える」「少量頻回給餌」「ゴミ漁り・おすそ分けを避ける」が土台です。具体的な脂質量や回数は獣医師の指示に従ってください。
あわせて、併発しやすい糖尿病の食事や手作りごはんのリスクもご確認ください。
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参考文献を表示(全 13 件)
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