腎臓の数値が高いと言われたら、何から始めればいい?
CKD と診断されたら、まずは食事の見直しから。リン・タンパク質・ナトリウムを段階的に整える流れが基本です。
慢性腎臓病(CKD)とは
CKD は腎臓のはたらきが3か月以上低下したままの状態[9]。一度失われたネフロン(腎臓の機能単位)は戻りません。
気づきのサイン
- 多飲多尿(最も早く出やすい)
- 食べているのに体重が減る、食欲のムラ・吐く回数増
- 口臭がアンモニア臭く(尿毒症の兆候)
- 毛づや・毛量の低下
食事の見直しが中核となる理由
CKDでは老廃物蓄積が尿毒症(老廃物が体内に溜まり中毒症状を起こす状態)・高血圧・骨ミネラル代謝の崩れを招き悪循環に陥りがちです。腎臓病の犬を対象にした比較研究[3]では、療法食を食べていた犬の方が、急に具合が悪くなって命の危険がある状態(尿毒症クリーゼ)になりにくく、生存期間が長かったと報告。シニア犬の栄養管理ガイドも参考に。
CKD のステージ(IRIS)はどう分類される?
IRIS は血液検査値で 4 ステージに分類。ステージごとに食事方針も生存期間目安も変わります。
IRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)はクレアチニンと SDMA で4ステージに分類する国際ガイドライン[1]。以下は IRIS 2026 改訂版に基づきます。
| ステージ | クレアチニン (mg/dL) | SDMA (μg/dL) | 臨床的特徴 | 食事の方針 / 生存期間の目安 |
|---|---|---|---|---|
| ステージ 1 | < 1.4 | < 18 | 症状はほぼ無し、構造的異常あり | リン制限検討、高品質タンパク維持。数年の経過例も多い |
| ステージ 2 | 1.4〜2.8 | 18〜35 | 軽度の老廃物蓄積、多飲多尿 | 療法食検討、リン制限強化。1〜数年の維持 |
| ステージ 3 | 2.9〜5.0 | 36〜54 | 食欲低下・体重減・嘔吐など尿毒症 | 療法食継続、さらなる制限、オメガ3。数か月〜1年 |
| ステージ 4 | > 5.0 | > 54 | 顕著な尿毒症、貧血、脱水 | 食欲維持優先、輸液併用、QOLを重視。個体差大 |
※臨床的特徴や生存期間は目安で個体差・併発疾患・管理状況で変動します[3]。
IRIS ステージ別 食事プロトコル早見表
この IRIS 早見表を素材レベルへ落とし込んだものが下表です[5]。実際の処方は獣医師相談が前提です。
| ステージ | 主食(療法食カテゴリ) | 補完 OK 素材(獣医師相談) | 避けたい素材 | 水分量目安 |
|---|---|---|---|---|
| Stage 1 | 通常食 or 軽度リン制限療法食 | 白米・きゅうり・加熱卵白少量 | レバー・煮干し・チーズ | 50〜100 mL/kg/日 |
| Stage 2 前期 | 腎臓病療法食 or リン制限フード | 白米・きゅうり・大根・茹でキャベツ | 骨・卵黄・小魚・加工肉 | 60〜100 mL/kg/日 |
| Stage 2 後期〜3 | 腎臓病療法食(リン強化制限)+ オメガ 3 | 白米・きゅうり・少量鶏ささみ | バナナ・かぼちゃ・さつまいも(高カリウム) | 70〜120 mL/kg/日 |
| Stage 4 | 嗜好性最優先(食べられるものを優先) | 獣医師指示の流動食・ウェット混合 | 個別判断(基本は前ステージ準拠) | 輸液併用検討 |
※ 表は一般的目安です。腎臓だけでなく心臓・関節・併発症があるとプロトコルは個別調整が必要となります。
血液検査の数値(クレアチニン・SDMA・BUN)はどう読む?
動物病院で確認する主な値は次の3つです。数値は単発でなく「推移」で見ると、ステージが進んでいるか維持できているか獣医師にも判断しやすくなります[5]。
- クレアチニン:筋肉由来の老廃物。腎機能75%低下まで正常範囲のため早期発見は苦手
- SDMA:早期マーカー。腎機能25〜40%低下時点で上昇[10](猫の研究が中心、犬でも同様の傾向の報告あり)
- BUN(尿素窒素):タンパク代謝の老廃物。脱水・絶食・高タンパク食でも上がるためクレアチニン・SDMAとセットで読む
リン・カリウム・尿比重・尿タンパク/クレアチニン比(UPC)も重要で、検査前は絶食指示を守ってください。飲水量はステージ1〜2で体重1kgあたり50〜100mL/日が目安で、急な倍増・半減はステージ移行のサインの可能性があります[9]。記録しておきたい項目は受診前チェックリストにまとめています。
栄養素の管理(リン・タンパク質・ナトリウム)は?
腎臓病ケアの中心はリン管理(乾物 0.2〜0.5%)。あわせてタンパク質は「適度に」、ナトリウムは控えめにするのが基本です。
リン制限が中核
CKD ではリン排出機能が低下し血中リン濃度が上がりやすくなります(高リン血症)。血中リン濃度を目標範囲に保つことは生存期間・臨床所見の改善に寄与する可能性が研究[7]で示唆されています。高リン血症はカルシウム調整ホルモンの乱れ(二次性副甲状腺機能亢進症)・骨がもろくなる・軟部組織の石灰化を招き、CKD進行が早まる悪循環につながります。
NRC[6]・Polzin[8]では乾物ベース 0.2〜0.5%が一般目安。通常フード(0.5〜1.5%)からの療法食切り替えが基本です。
リン量で見る食材ランキング(乾物 mg/100g)
食材のリン量は 乾物ベース mg/100g で並べると比較が容易です。NRC 2006[6]と日本食品標準成分表(参考値)から代表素材を整理しました。
| カテゴリ | 素材例 | リン量(mg/100g 目安) | CKD での扱い |
|---|---|---|---|
| 低リン(積極活用) | きゅうり・キャベツ(茹で) | 20〜35 | 低カリウムなら獣医師相談で OK |
| 低リン(エネルギー源) | 白米(炊飯) | 34 | 主食補完素材として一般的 |
| 低リン(タンパク源) | 加熱卵白 | 11 | 少量なら活用しやすい |
| 中リン | 鶏ささみ(茹で) | 240 | 少量・獣医師相談 |
| 高リン(避けたい) | レバー・卵黄 | 340〜570 | CKD では基本 NG |
| 超高リン(禁忌) | 煮干し・チーズ | 700〜1,500 | 避けたい食材 |
※ 含有量は加工方法・産地で変動。獣医師処方の療法食を主軸にしたうえでの補完素材として活用してください。
タンパク質は「適度に」
ステージ別に調整します。過度な制限はサルコペニア(筋肉量の減少)を招きQOLを下げるため、獣医師の指示が前提です[8]。ステージ1〜2前期は良質タンパクで筋肉量を維持、2後期〜3は乾物ベース約14〜20%で症状に応じて調整[5]、ステージ4は食欲と栄養状態の維持も両立します。消化率の高い鶏ささみ・白身魚は老廃物が少なめ。選び方はタンパク質比較ガイドも参考に。
ナトリウム・その他の栄養素
CKD犬は高血圧合併が多く腎ダメージを悪化させます。ACVIM(米国獣医内科学会)合意声明[2]ではナトリウム過剰摂取を避けることが推奨され、療法食は乾物ベース0.1〜0.3%が一般的[8]。加工食品・味付き肉・パン・塩分おやつは避け、急な制限は脱水リスクのため段階的に。あわせてオメガ3(EPA・DHA)は糸球体圧力調整に寄与する可能性[4]、カリウムはCKD進行で変動するため定期検査、水分摂取はウェット活用や冬の水分補給ガイドのテクニックが目安です。
腎臓病で避けたい食材と与えやすい食材は?
リン・ナトリウム高値は避け、白米・ささみ・きゅうり等の低リン食材は獣医師相談で活用可。茹でこぼしでカリウムを減らす工夫も。
| 避けたい食材 | 具体例 | 理由 |
|---|---|---|
| リンが多い食品 | 骨、卵黄、レバー等内臓肉、煮干し・ししゃも | 高リン血症を招き腎機能悪化を加速 |
| 乳製品 | チーズ、ヨーグルト、牛乳 | リン・ナトリウム多く腎負担大 |
| 加工肉・味付き肉 | ジャーキー類、ハム、ソーセージ、ベーコン | 塩分が非常に高く高血圧悪化 |
| 高タンパクおやつ | ジャーキー、チーズスティック、牛皮ガム | BUN蓄積で尿毒症リスク |
| カリウムが多い食品 | バナナ、カボチャ、さつまいも、ほうれん草 | CKD後期は高カリウム血症リスク |
比較的与えやすい食品(獣医師相談で)
- 白米・おかゆ:低リンのエネルギー源
- 鶏ささみ少量:低脂肪・消化良好(量注意)
- きゅうり・大根:水分多・低リン低ナトリウム
- 加熱卵白少量・キャベツ/ブロッコリー(茹でこぼし):卵黄は除く、野菜は茹で汁を捨てる
「茹でこぼし」と「おやつ」の考え方
カリウム多めの野菜は茹でこぼし(5〜10 分・茹で汁を捨てる)で 20〜40% 減が目安(判断は獣医師相談)。おやつは 1 日カロリーの10% 以下に抑え、具体的素材は前項の info-box を参照してください。
腎臓病の療法食 vs 手作り食、リン管理でどう判断する?
腎臓病ではリン量を乾物ベースで毎食一定に保つ精密設計が中心になります。家庭での再現難度が高いため、療法食を主軸にする家庭が一般的です。
① 腎臓病療法食はリン・タンパク質・ナトリウムを精密設計した基本の選択肢です。近年はステージ1〜2の早期向けに、タンパク質を抑えすぎずリンだけを制限した「早期腎臓ケア用」の療法食も登場しており、ステージに応じた選択肢が広がっています(食いつきが下がる例もあり獣医師指示が前提)。② 療法食+低リン補完トッピングは白米・きゅうり等で食いつき改善と水分補給を両立(カリウム・ナトリウムを含む素材は獣医師相談必須)。③ 完全手作り食は柔軟に対応できる一方、栄養素バランスの設計には専門家による個別処方が不可欠とされ[11](海外では獣医栄養学専門医による監修が一般的)、家庭でリン乾物量を毎食計算するのは現実的でないとされます。
移行は 7〜30 日で段階的に(25→50→75→100%)が一般的目安。汎用論や栄養素の不足リスクは手作りごはんの栄養リスクに集約しています。
CKD で食欲が落ちたとき、リンを増やさず工夫するには?
CKD では「リンとカリウムを増やさない」を最優先に、温め・ウェット活用・少量頻回・低リン低カリウムトッピング・食事環境の 5 つを獣医師相談で組み合わせます。
食欲低下時の 5 つの工夫
- 1. 温め:10〜15秒レンジか37〜38℃ぬるま湯で香りを引き出す
- 2. ウェット活用:ウェット腎臓ケア療法食/混合で水分摂取も増やす
- 3. 少量頻回:1日2回を3〜4回に分割(吐き気時に有効)
- 4. 低リン低カリウムトッピング:白米・きゅうり少量など。かぼちゃ・さつまいも・バナナはカリウムが多めのためCKD後期は要相談
- 5. 食事環境:静かな場所、関節痛は食器台で姿勢負担を軽減
1 日量の決め方とステージ 4 の方針
まず体重(kg)0.75×70kcalで、寝て過ごすだけでも消費する基本のカロリー(RER)を算出します。実際に与える1日分のカロリー(DER)は、この基本値に犬の活動量や年齢を掛け合わせて決めるのが一般的で、CKDの犬ではRERの1.1〜1.6倍程度が目安とされています。散歩が多い・まだ若く活発な犬は高めに、シニアで運動量が少ない犬は低めに調整するイメージです。ステージ 4 では QOL を最優先に「食べられるだけ」へ切り替え、食欲増進薬の選択肢は獣医師に相談してください。
⚠️ すぐに獣医師へ相談すべきサイン
食事をほぼ摂らない(高齢犬は半日〜1日でも要注意)、急激な体重減少、頻繁な嘔吐、ぐったりは速やかに受診を。脱水・電解質異常が急速進行する可能性があるとされます。
食欲低下の全般的な原因は食べないときの 6 つの原因と対処法へ。
CKD 受診前に整理しておきたい腎臓病ならではの項目は?
フード・体重・飲水量・尿の様子に加え、過去のクレアチニン・SDMA・リン値推移をまとめると診察がスムーズです。以下を月1回記録しておくと安心です。
✅ CKD 受診前チェックリスト
- 現在の主食フード(療法食銘柄を含む)・1 日給与量・リン/タンパク質の含有量(乾物ベース %)。パッケージごと持参が理想
- おやつの内容と頻度(無塩白米煎餅・きゅうり等の低リン素材か、ジャーキー等の高リン素材かを申告)
- 体重の変化(過去 3 か月)、飲水量・排尿回数・尿の色や濃さの変化
- 食欲・嘔吐・口臭(アンモニア臭)・元気のなさの有無
- 過去の血液検査結果:クレアチニン・SDMA・BUN・リン・カリウム・尿比重・尿タンパク/クレアチニン比(UPC)の推移表
※ スマホのメモやスプレッドシート1枚で運用でき、受診時はスクリーンショットを見せるとスムーズです。
よくある質問
犬の腎臓病で食べてはいけないものは何ですか?
避けたいのはリン高(骨・乳製品・卵黄・レバー・煮干し)、ナトリウム高(加工食品・味付き肉・パン)、高タンパクおやつ(ジャーキー・チーズ)。療法食を中心に全体のリン・ナトリウム・タンパク質量を見直します。くわしくは本文「避けたい/与えやすい食材」へ。
犬の腎臓病の寿命や余命はどれくらいですか?
ステージと個体差で大きく異なります[3]。療法食群では生存期間が有意に長かったと報告され、ステージ1〜2は数年単位、3〜4は数か月〜1年が一般的な目安です。
腎臓病の犬に与えてもよいおやつはありますか?
低リン・低ナトリウム素材を1日カロリーの10%以下で、獣医師相談のうえ少量を。無塩白米煎餅・薄切りりんご・加熱卵白少量・きゅうりなどが選択肢で、ジャーキー・チーズなど高タンパク・高塩分系は避けます。
リン制限は何%が目安ですか?
リン摂取量は乾物ベース0.2〜0.5%が一般目安[6][8]。通常フードは0.5〜1.5%のため療法食への切り替えが基本。骨・乳製品・卵黄・内臓肉・小魚はリンが特に多めです。
腎臓病の犬にはどれくらいのタンパク質量が適切ですか?
ステージで変わり、1は通常量、2は約20%、3〜4は14〜20%が一般目安[5]。過度な制限はサルコペニアを招くため獣医師の指示が前提です。
BUN やクレアチニンの値はどう読めばいいですか?
BUNはタンパク代謝、クレアチニンは筋肉代謝の老廃物。クレアチニンは腎機能75%低下まで正常範囲のため、より早期に上昇するSDMAとの併用が推奨されています[10](猫の研究が中心、犬でも同様の傾向の報告あり)。
ステージが上がった(進行した)と言われたら食事はどう変えればいい?
ステージ1→2はリン制限を強化しつつ、タンパク質を大きく減らさずに設計された早期ステージ向け療法食への切り替えを検討します。ステージ2→3に進んだら、タンパク質を乾物ベースで約14〜20%まで調整し、3→4ではQOLを重視して食欲維持を最優先とします[5]。いずれの移行も急に切り替えず7〜30日ほどかけて段階的に行い、定期検査の数値を確認しながら獣医師と方針を共有してください。
腎臓ケアでサプリメントは使ってもいいですか?
サプリは必ず獣医師に相談のうえで。CKDではオメガ3(EPA・DHA)が糸球体圧力調整に寄与する可能性[4]、リン吸着剤、カリウム補給などが処方されます。市販マルチサプリは余分なリン・ミネラルを含むことがあり、療法食との重複に注意が必要です。
まとめ
腎臓病(CKD)の食事は「リン制限」「適度なタンパク質」「ナトリウム制限」が3本柱。早期からの過度な制限は避け[5]、療法食を主軸に獣医師相談で愛犬に合う組み合わせを選びます。定期的な血液検査でステージに合わせた調整を続けましょう[3]。
あわせてシニア犬の食事ガイドとタンパク質比較ガイドも参考にしてください。
参考文献を表示(全 11 件)
- IRIS (International Renal Interest Society). "IRIS Staging of CKD"(最新版). iris-kidney.com.
- Brown SA, Atkins C, Bagley R, et al. "Guidelines for the identification, evaluation, and management of systemic hypertension in dogs and cats." J Vet Intern Med. 2007;21(3):542-558. doi:10.1111/j.1939-1676.2007.tb03005.x
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- Brown SA, Brown CA, Crowell WA, et al. "Beneficial effects of chronic administration of dietary omega-3 polyunsaturated fatty acids in dogs with renal insufficiency." J Lab Clin Med. 1998;131(5):447-455. doi:10.1016/s0022-2143(98)90146-9
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