BHA・BHTに発がん性?ドッグフードの酸化防止剤の安全性を解説

ドッグフードの酸化防止剤BHA・BHTの安全性を科学的に解説

この記事の結論

BHAはIARC(国際がん研究機関)でGroup 2B(発がん性の可能性レベル)に分類されていますが、ペットフード安全法の基準値(150ppm)以内であれば犬への実害を示す科学的根拠は確認されていません。科学的根拠に基づく5つのポイントをまとめました。

  • 基準値内なら安全 - 日本のペットフード安全法ではBHA・BHTそれぞれ150ppm以下と規定されており、この範囲内での使用は安全性が確認されています[2]
  • BHAのIARC分類 - IARCはBHAをGroup 2B(ヒトへの発がん性の可能性)に分類していますが、これは高用量の動物実験に基づくもので、実際の使用量とは大きな差があります[1]
  • 酸化防止剤は必要 - ドッグフード中の脂質が酸化すると、有害な過酸化脂質が生成され、嘔吐・下痢・臓器障害の原因になり得ます
  • 天然代替品も増加 - ミックストコフェロール(ビタミンE)やローズマリー抽出物など、天然由来の酸化防止剤を使用する製品が増えています
  • 総合的に判断を - BHA・BHTの有無だけでなく、原材料全体の品質・栄養バランス・保存管理を含めて総合的にフードを選ぶことが重要なポイントです

以下で、各酸化防止剤の特徴・規制値・天然代替品との比較を詳しく解説しています

「ドッグフードの原材料にBHA・BHTと書いてあるけど、これって大丈夫なの?」「発がん性があるって聞いたことがあるけど本当?」そんな不安を感じている飼い主さんは少なくないでしょう。

結論からお伝えすると、BHA・BHTはペットフード安全法で定められた基準値内であれば、安全性が確認されている酸化防止剤です。ただし、IARCによる発がん性分類の存在や消費者の意識の高まりを受けて、天然由来の酸化防止剤を使用する製品も年々増えています。

この記事では、BHA・BHTの科学的な安全性データ、日本の規制値、天然酸化防止剤との違いまで、ファクトベースで解説します。過度に不安を煽ることなく、正確な情報をもとに愛犬のフード選びに役立てていただければ幸いです。

酸化防止剤とは何か - なぜドッグフードに必要なのか

脂質の酸化がフードの品質を劣化させる

ドッグフードには、犬のエネルギー源として欠かせない脂質(油脂)が含まれています。鶏脂、魚油、亜麻仁油など、さまざまな油脂がフードの嗜好性や栄養価を高めるために配合されています。

しかし、脂質は空気中の酸素と反応して酸化しやすい成分です。酸化が進むと以下のような問題が生じます。

  • 過酸化脂質の生成:酸化した脂質は過酸化脂質に変化し、犬が摂取すると消化器系のトラブル(嘔吐・下痢)や、長期的には細胞膜の損傷・臓器への悪影響が懸念されます[4]
  • 風味・嗜好性の低下:酸化した油脂は不快な臭いを発し、犬がフードを食べなくなる原因になります
  • 栄養価の損失:ビタミンA、ビタミンE、脂肪酸などの栄養素が酸化により分解され、栄養価が著しく低下します

酸化防止剤の役割

酸化防止剤(抗酸化剤)は、フード中の脂質が酸素と反応して酸化するのを防ぐために添加される成分です。化学的には、酸化防止剤自身が先に酸化されることで、脂質の酸化連鎖反応を遮断する働きがあります。

酸化防止剤は大きく分けて合成酸化防止剤天然酸化防止剤の2種類があります。

分類代表例特徴
合成酸化防止剤BHA、BHT、エトキシキン抗酸化力が強く、長期保存が可能。安価。
天然酸化防止剤ミックストコフェロール、ローズマリー抽出物、ビタミンC安全性への懸念が少ないが、抗酸化力は合成品より弱い傾向。

いずれの酸化防止剤にもメリット・デメリットがあり、一概に「合成=悪、天然=善」とは言い切れません。それぞれの特性を理解した上で判断することが重要です。原材料の読み方全般については原材料ラベルの読み方ガイドも参考にしてください。

BHA(ブチルヒドロキシアニソール)とは

BHA(Butylated Hydroxyanisole)は1947年に食品用酸化防止剤として開発された合成化合物。油脂溶解性が高く熱にも安定し、加工食品・ドッグフードで広く使用、人間の食品(バター・マーガリン・インスタント食品)にも認可されています。

IARCの発がん性分類:Group 2B

IARC(国際がん研究機関)はBHAをGroup 2B(ヒトに対する発がん性の可能性)に分類[1]。背景はラット前胃(犬・人間にはない器官)への高用量投与で腫瘍発生が確認されたことです。

IARC分類とは

  • Group 1: ヒトに発がん性あり(アスベスト、タバコ等)
  • Group 2A: おそらく発がん性あり
  • Group 2B: 発がん性の可能性あり(BHAはここ。コーヒー・漬物も同分類)
  • Group 3: 分類できない

重要なのは犬にはラットの前胃に相当する器官がないこと。EFSA(欧州食品安全機関)2011年再評価ではBHAのADI(一日摂取許容量)を体重1kgあたり1.0mg/日と設定[3]。ペットフード使用量はADIを大きく下回る水準で管理されています。規制値内の使用量で犬に実害が出る科学的根拠は現時点で確認されていないのが正確な表現です。

BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)とは

BHT(Butylated Hydroxytoluene)はBHAと同類の合成酸化防止剤。BHAより揮発性が高く高温酸化防止はやや劣るものの、室温脂質酸化防止に優れます。

項目BHABHT
IARC分類Group 2B(可能性あり)Group 3(分類できない)
耐熱性高い低い(揮発性あり)
抗酸化力強い強い(ほぼ同等)
ペットフード安全法150ppm以下150ppm以下
EFSA ADI1.0mg/kg/日0.25mg/kg/日

BHTはIARC Group 3でBHAよりリスク評価は低い[1]。ただし高用量投与で肝臓肥大の報告があり、EFSAのADIはBHA(1.0)よりBHT(0.25)が低めに設定[3]。BHA・BHT併用で相乗的な酸化防止効果が得られるとされます。詳細はドッグフード選び方ガイドへ。

日本のペットフード安全法での規制値

ペットフード安全法(2009年6月施行、農林水産省・環境省所管)[2]は犬猫ペットフードの安全基準を定めています。

添加物名上限値
BHA(ブチルヒドロキシアニソール)150ppm以下
BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)150ppm以下
エトキシキン75ppm以下
BHA+BHT+エトキシキンの合計150ppm以下

※150ppm=0.015%(フード1kgあたりBHA 0.15g以下)。実際の製品では上限値より低い濃度で使用されるケースがほとんどです。日本の基準は国際基準とほぼ同水準で、EUでも150mg/kg以下、米国FDAもBHA・BHTをGRASとして認定。一部EU加盟国では自主規制が始まっており、業界全体として天然酸化防止剤への移行トレンドが見られます。

天然由来の酸化防止剤 - 代替品の比較

  • ミックストコフェロール(ビタミンE): 最も広く使用される天然酸化防止剤。大豆油・ひまわり油から抽出、脂溶性で脂質酸化を防ぎ、ビタミンEとしての栄養機能(細胞膜保護・免疫サポート)も兼備[4]
  • ローズマリー抽出物: カルノシン酸・カルノソールが強い抗酸化作用。トコフェロールと併用が一般的。てんかん持ちの犬には影響を懸念する声があり敏感犬には注意。
  • ビタミンC(アスコルビン酸): 水溶性で単独効果は限定的だが、ビタミンEの再生を助けトコフェロールとの併用で効果を発揮。
項目合成(BHA・BHT)天然(トコフェロール等)
抗酸化力強いやや弱い
未開封保存期間18〜24ヶ月12〜18ヶ月
耐熱性高いやや低い
コスト安価やや高価
安全性懸念IARC 2B(BHA)ほぼなし
栄養機能なしビタミンE機能あり

天然酸化防止剤のフードを選ぶ場合は、保存期間が短め・開封後1ヶ月以内の使い切り・密閉容器/冷暗所保管が重要。詳細はドッグフードの保存方法ガイドへ。

エトキシキンについて

エトキシキン(Ethoxyquin)はBHA・BHTと並ぶ合成酸化防止剤で、もともとゴム劣化防止剤として開発された強い抗酸化力を持つ化合物。フィッシュミール(魚粉)の酸化防止に広く使用されてきました。漁獲後の加工・輸送段階で添加されるため、メーカーが自社で添加しなくても原材料由来のエトキシキンが含まれる可能性があります。日本では原材料由来も含め75ppm以下と規定されています[2]

EUでは2017年に飼料用途認可が失効、2020年以降は事実上禁止。日本では基準値内での使用継続が認められていますが、プレミアムフードを中心に「エトキシキン不使用」表示が増えています。

原材料表示のチェックポイント

  1. 添加物欄を確認: ペットフード安全法により添加物表示義務あり。「酸化防止剤(BHA)」「酸化防止剤(BHT)」「酸化防止剤(ミックストコフェロール)」のように用途名と物質名が併記されます
  2. 天然酸化防止剤の表記: 「ミックストコフェロール」「ローズマリー抽出物」「ビタミンE、ビタミンC」「天然由来の酸化防止剤使用」
  3. 「保存料不使用」と「酸化防止剤不使用」は別物: 保存料は微生物増殖防止、酸化防止剤は脂質酸化防止と役割が違うため要混同注意
  4. 原材料由来の酸化防止剤も注意: フィッシュミール・動物性油脂由来のものが残留する場合あり。メーカー問い合わせも有効

原材料の知識はドッグフードの添加物ガイドもご覧ください。酸化防止剤だけでなく原材料全体(タンパク質源・穀物・脂質源)のバランスで判断することが大切です。

よくある質問

BHA・BHTフリーのフードを選ぶべき?

ペットフード安全法基準値(BHA・BHT各150ppm以下)を満たした製品なら安全性が確認されています。天然由来酸化防止剤(ミックストコフェロール・ローズマリー抽出物)使用品も流通しており選択肢ですが、BHA・BHTの有無だけでなく原材料全体の品質・タンパク質源・栄養バランスで総合判断を。

天然酸化防止剤なら完全に安全?

合成より懸念は少ないとされますが、抗酸化力が弱く保存期間が短い傾向。開封後の管理が不適切だと酸化が進み過酸化脂質が生成されるリスクがあるため、適切な保存管理が重要です。

合成と天然で保存期間にどう違う?

未開封でBHA・BHT使用品は18〜24ヶ月、天然のみ使用品は12〜18ヶ月が目安。開封後は1ヶ月以内の使い切り推奨。天然系は特に開封後劣化が早く、小分け保存・密閉容器使用が重要です。

手作り食なら酸化防止剤の心配は不要?

添加物はないですが油脂は酸化が非常に速く進みます。過酸化脂質生成リスクがあるため作り置きを避け新鮮な食材を使い調理後すぐに与えることが大切。栄養バランス確保のため総合栄養食ドッグフードとの併用が推奨です。

まとめ

BHA・BHTはドッグフードの脂質酸化防止に使用される合成酸化防止剤。日本のペットフード安全法ではBHA・BHTそれぞれ150ppm以下と規定され、基準値内なら安全性が確認されています[2]。IARCはBHAをGroup 2Bと分類しましたが高用量動物実験ベースで、実際の使用量で犬に健康被害が出る科学的根拠は確認されていません[1][3]

ミックストコフェロールやローズマリー抽出物等の天然由来酸化防止剤使用品も増えており選択肢が広がっています(保存期間や開封後管理に注意)。最も大切なのは、酸化防止剤の種類だけでなく原材料全体の品質・栄養バランス・愛犬の体質を総合判断することです。

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参考文献を表示(全4件)
  1. IARC (1986). "Some Naturally Occurring and Synthetic Food Components, Furocoumarins and Ultraviolet Radiation." IARC Monographs on the Evaluation of the Carcinogenic Risk of Chemicals to Humans, Vol. 40.
  2. 農林水産省・環境省. 「ペットフード安全法(愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律)」成分規格等.
  3. EFSA Panel on Food Additives and Nutrient Sources (2011). "Scientific Opinion on the re-evaluation of butylated hydroxyanisole – BHA (E 320) as a food additive." EFSA Journal, 9(10), 2392.
  4. National Research Council (2006). "Nutrient Requirements of Dogs and Cats." National Academies Press.
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