初期症状と受診の目安:咳と呼吸の速さ
むせた後や吐いた後に咳が出ると、肺炎ではないかと心配になりますよね。
初期のサインは、呼吸が速くなる・咳が出る・元気や食欲が落ちることです[1]。激しい咳が出るとは限らないので、呼吸の数も見ましょう[1]。
- 咳:食事や水を飲んだ後や、夜に咳が出ます[2][3]。
- 呼吸:休んでいても呼吸が速くなります[1]。息をするたびに、ゼーゼー・ヒューヒューと音がする犬もいます[3]。
- 元気・食欲:食欲が落ちて、動きたがらなくなります。軽いうちは、このサインしか出ない犬もいます[4]。
- 熱・鼻水:体が熱っぽくなったり、鼻水が出たりします[3]。
誤嚥性肺炎の犬で咳が出たのは約6割、熱が出たのは約3割だったという報告があります[5]。
寝ているときの呼吸の数を数える
呼吸の数を見て判断しましょう。犬が静かに寝ているときに数えます[6]。
- 胸が1回ふくらんで、しぼむまでを1回と数えます。
- 30秒数えて2倍にします。1分ずっと数えてもかまいません。
- 速いと思ったら、数時間のうちにもう一度数えて確かめます[6]。
健康な犬なら、1分に15〜30回です[6]。
| 犬の様子 | 次の行動 |
|---|---|
| 上の「緊急の方はまずこちらへ」に当てはまる | すぐ動物病院へ |
| 寝ているときの呼吸が1分に30回を超える状態が続く。咳が続く。元気や食欲が落ちた。熱っぽい | その日のうちに動物病院へ連絡する |
| むせても咳が1〜2回で止まり、呼吸・元気・食欲が普段どおり | 呼吸の数を記録して様子を見る(むせた日から1週間ほど、毎日) |
老犬や、喉・食道に病気のある犬は、サインが軽くても早めに相談しましょう[2][4]。麻酔を受けた後の犬も同じです[4]。
誤嚥から何時間で症状が出る?
実験では、肺の炎症は誤嚥から4〜6時間ほどで始まるとされています[5]。
麻酔の後に誤嚥したときは、目が覚めてすぐに症状が出ることも、1週間以上たってから出ることもあります[4]。
誤嚥から1日半以上たって熱が出たときは、細菌の感染が疑われます[5]。
むせた直後にすること
- 食べ物と水は咳が落ち着いてから:食べ物や水を誤嚥した犬では、咳も症状の一つです[9]。咳が落ち着くまで、食べ物と水は少し待ちましょう。
動物病院へ連絡するかどうかは、咳が落ち着くのを待たずに、呼吸と咳の様子の表で決めます。 - 家で吐かせない:吐くと、吐いた物が気管に入りやすいためです[4]。塩や油を飲ませて吐かせるのもやめましょう[7]。
呼吸の数は数え方のとおりに数え、時刻と一緒にメモしておきます。
受診したときに見せると、いつから速くなったかを獣医師に伝えられます。
骨を食べた後に吐く・血が混じるとき
まず、記事の冒頭の「緊急の方はまずこちらへ」に当てはまらないかを見ます。
当てはまるときは、すぐに受診してください。
当てはまらなくても、食べた後に次のどれかがあれば、その日のうちに動物病院を受診しましょう。
- 何度も吐く・吐き戻しが増えた
- 吐いた物に血が混じる
- ぐったりしている・食べない
- 呼吸が速い・咳が出る
骨や噛むおもちゃが胃や腸に詰まっても、すぐには症状が出ないことがあります[14]。
数時間から数日たってから、吐く・下痢・元気がない・食べない・お腹を痛がる、などが出ることもあります[14]。
何度も吐くと、吐いた物が気管に入って、誤嚥性肺炎の原因になります[4]。
骨の鋭いかけらで、口・食道・胃が傷つく場合もあります[14]。
鶏の骨を食べた直後にすることは、犬に危険な食べ物の「骨」の項で確かめられます。
飼い主の体験:骨のおやつの後に誤嚥性肺炎に
ミニチュアピンシャー(5歳・体重5kg)の飼い主の体験です。
期間と費用は、この犬の例です。
| 項目 | この犬の場合 |
|---|---|
| 犬 | 持病は無し(かゆみ・去勢・皮膚のイボの手術で通院したことはある) |
| きっかけ | 市販の硬い豚の骨のおやつを与えた |
| 気づいたサイン | ぐったりした。吐き戻しが増えた。吐いた物に赤い血が混じった。体のにおいが変わった |
| 検査 | すぐに受診し、レントゲンで胃の中に異物が見つかった。血液検査も受けた |
| 治療 | 入院はせず、2週間通院した。最初の3〜5日はほぼ毎日、その後は2〜3日に1回。抗菌薬などの薬と点滴 |
| 費用 | 約10万円。入っていたペット保険のプランは通院が対象外で、使えなかった |
| 今 | 約2週間で治り、今は元気に過ごしている |
主治医の説明では、硬い骨が異物として胃に入り、それが誤嚥性肺炎につながったとのことでした。
あわせて「硬いものは獣医師はあまり与えないので、おすすめしない」と言われたそうです。
子犬のころにも、吐き戻しがありました。
原因は、脂質の多いフードで胃腸に負担がかかったことでした。
飼い主は、硬いものが危ないことは知っていましたが、自分の犬には当てはまらないと思っていました。
硬い骨のおやつが誤嚥性肺炎につながると知っていれば、与えなかったそうです。
今は、硬いおやつを与えていません。
老犬に多い?誤嚥性肺炎の原因
原因で多いのは、吐いた物や食べ物・水が気管に入ることです[4]。飲み込む力が弱い犬や、喉・食道に病気のある犬に多く見られます[5]。
- 老犬:年をとると飲み込む力が弱まり、むせやすくなります。8歳以上の犬は、とくに気をつけましょう[2]。
- 嘔吐と吐き戻し:吐くときに、胃の中の物を気管へ吸い込むおそれがあります[4]。食べた物が胃に届く前に口から戻る「吐き戻し」が続くなら、食道の病気かもしれません[8]。
- 食道の病気(巨大食道症):食道が広がり、食べた物を胃へうまく送れなくなる病気です。誤嚥性肺炎を起こしやすくなります[8]。
- 喉の病気(喉頭麻痺):喉の入り口がうまく動かず、気管に物が入りやすい病気です[4]。ラブラドール・レトリーバーなどの大型犬に見られます[5]。
- 早食い・食べさせ方:急いで食べたり、飲み込めない犬に無理に食べさせたりすると、むせる原因になります[1][2]。液体の薬を飲ませるときも、気管に入ることがあります[9]。
- 麻酔・神経の病気・寝たきり:麻酔の後や、けいれん・椎間板の病気で寝たきりの犬も、誤嚥の危険が高まります[5]。
- 犬種:パグやフレンチ・ブルドッグなど鼻の短い犬種と、ダックスフンドに多いと報告されています[5]。
病院の検査と治療:レントゲンと薬
動物病院では、聴診とレントゲンで肺の様子を調べ、薬と酸素で治療します[1]。重いときは、入院での治療も選ばれます[1]。
どんな検査をする?
- 聴診とレントゲン:胸の音を聞き、レントゲンで肺の炎症を見ます。誤嚥の直後は写らない場合があり、必要なら時間をおいて撮り直します[1]。
- 血液検査:炎症の強さを調べます。機械で、血液中の酸素の量も測ります[1]。
どんな治療をする?
- 抗菌薬:肺の細菌をおさえる薬です。入院中は注射で、退院後は飲み薬で続けることが多いです[10]。細菌に感染していないときは、使わない場合もあります[10]。
- 酸素室:血液中の酸素が足りないときは、酸素の濃い部屋で休ませます[1]。
- 点滴:体の水分と栄養を保ちます[1]。
- 吸入:薬を霧にして吸わせる治療を行う病院もあります[3]。
- 原因の病気の治療:吐き戻しや喉の病気など、誤嚥のもとになった病気も治療します[1]。
治る?回復までの期間と余命・死亡
入院して治療を受けた犬の約8割が、退院できたという報告があります[11][12]。
3〜7日ほどで回復する犬が多く[5]、治療の効果が出るまで数週間かかる犬もいます[3]。
治り具合と、薬をやめてよいかは、薬を始めてから10〜14日までの診察で確かめます[10]。
重くなると、命にかかわります[1]。
重さを左右すること
- 治療を始めた時期:早く見つけて治療を始めるほど、見込みがよいとされています[4]。
- 年齢と体力:若くて健康な犬ほど、よく回復すると言われています[4]。
- 吸い込んだ物:吸い込んだ物の種類によっては、重くなります[5]。
余命は短くなる?
巨大食道症のように誤嚥の原因が続く犬は、肺炎をくり返すうちに寿命が縮むことがあります[8]。
見通しは、誤嚥のもとになった病気が治るかどうかで変わります。主治医に聞いておきましょう。
退院した後に見ることと、獣医師に確かめること
家では、暖かく乾いた部屋で休ませましょう[9]。
家で記録する項目と、変化があったときの相談の目安は、毎日見ることの節にあります。
退院のときに、次のことを獣医師に確かめておくと、家で迷いません。
- 飲み薬を飲ませる日数と、次の診察の日
- 食事の形(ふやかすか、とろみを付けるか)と、1回の量
- 水の与え方(1回の量と、与える回数)
- 散歩・運動・シャンプーを、いつから戻してよいか
- 食べるときの姿勢に、気をつけることがあるか
家での食事と水の与え方で予防する
どの犬も、骨や硬いおやつは与えないようにしましょう。
胃や腸に詰まって何度も吐くことが、誤嚥のきっかけになるためです[4]。
避けたいおやつと硬さの見分け方は、硬いおやつの記事にまとめています。
| 食べ物・与え方 | 目安 |
|---|---|
| 骨のおやつ・食卓に残った骨 | やめる:詰まりやけがを防ぐため、与えません[14]。 |
| 早食いの犬の食事 | 量を控える:1回の量を減らして回数を分けます[2]。 |
| 飲んだ後にむせる犬の水 | 量を控える:一度に飲ませる量を少なくし、少しずつ与えます[3]。 |
| 液体の薬の飲ませ方 | 獣医師に確認:飲み込める速さで与える方法を教わります[9]。 |
| 巨大食道症の犬の食事 | 獣医師に確認:食事の形と食べる姿勢を相談します[8]。 |
家で整えられるのは、食器の高さ・食べる速さ・水の量です。
食事中の咳やむせが続くとき、飲み込みにくそうなときは、工夫で済ませず動物病院へ相談しましょう。
むせやすい犬が家で試せる工夫
- 食器の高さ:食器台で食器を高くすると、首を深く下げずに食べられます。食器台で誤嚥そのものは防げません。合う高さは、食器台の高さの早見表で確かめましょう。
- 食べる速さ:早食いを防ぐ器や与え方は、小型犬の早食い対策にまとめています。
- 水の与え方:運動の後は、息が落ち着いてから飲ませます[2]。
- 無理に食べさせない:食欲が無いときに、口へ無理に入れるのはやめましょう[1]。
与え方を獣医師に決めてもらう犬
- 退院したばかりの犬:食事と水は、退院のときに教わった量と回数から始めます。確かめることは退院した後にまとめています。
- 寝たきりの犬:シリンジで食事や薬を与えるときは、獣医師の指示に従い、無理に与えないようにしましょう[1]。姿勢と与え方は寝たきり・老犬の流動食の与え方で解説しています。
- 巨大食道症の犬:上半身を45度以上起こして食べさせ、食後も15分以上その姿勢を保ちます[8]。やり方は獣医師に教わりましょう。
- 麻酔の後:食べ物と水は、動物病院の許可が出るまで与えません[3]。
繰り返さないために毎日見ること
呼吸の数と、食事のときの咳を毎日記録しましょう。記録した数や咳を呼吸と咳の様子の表に照らし、様子を見るか動物病院へ連絡するかを決めます。
- 呼吸の数:寝ているときに数え、日付と一緒にメモします
- 食事と水のときの咳:食べている間や食後に、むせたり咳をしたりしないか
- 嘔吐・吐き戻しの回数:いつ、何を戻したか
- 飲み込み方:飲み込むのに時間がかかる、など[2]
- 元気と食欲:普段と比べてどうか
原因の病気がある犬は、その治療を続けながら記録しましょう。くり返す犬の多くは、原因の病気を持っています[4][5]。
記録は、受診のときに獣医師へ見せると、変化を伝える手がかりになります。
まとめ:咳と呼吸の変化に気づいたら早めに受診を
- 家にある骨のおやつや硬いガムは、今日のうちに片付けましょう。
- 元気なうちに呼吸の数を数えて、愛犬の普段の数を知っておきましょう。
- 夜にあわてないよう、夜間に診てもらえる動物病院の電話番号を控えておきましょう。
- 吐くことが多い犬は、犬が黄色い液体を吐く原因もあわせて確かめましょう。
よくある質問
フライドチキン(ケンタッキーなど)の骨を食べたら、誤嚥性肺炎になる?
なることがあります。
食べた後に見ることと受診の目安は、骨を食べた後に吐くときの節で確かめましょう。
散歩やシャンプーはいつからしていい?
再開の時期は、退院時に獣医師へ確かめることの一覧を見ながら相談しましょう。
参考文献を表示(全14件)
- ハグウェル動物総合病院「犬の誤嚥性肺炎」(症状・原因・検査・治療・家での注意)
- つだ動物病院「犬や猫にもある誤嚥性肺炎に注意しましょう」(重さの段階・起こりやすい犬・家での見守り)
- けいこくの森動物病院「犬の誤嚥性肺炎」(症状・治療・効果が出るまでの期間・麻酔の後の食事)
- Texas A&M University School of Veterinary Medicine & Biomedical Sciences. "Aspiration Pneumonia In Pets." Pet Talk. 2025(軽いときのサイン・症状が出るまでの時間・回復の見込み・くり返す条件)
- 名古屋みなみ動物病院 どうぶつ呼吸器クリニック「犬の誤嚥性肺炎」(症状の割合・炎症が始まる時間・原因・犬種・回復の期間・治療)
- Texas A&M Veterinary Medical Teaching Hospital, Cardiology. "Measuring Your Pet's Breathing Rate."(PDF)(寝ているときの呼吸の数え方と正常な数)
- Pet Poison Helpline. "Top Ten Things to Remember When Your Pet Is Poisoned."(電話の前に吐かせない・手当てをしない・塩や油で吐かせる危険)
- MSD Veterinary Manual (Pet Owner Version). "Disorders of the Esophagus in Dogs."(巨大食道症と吐き戻し・食べさせるときの姿勢・誤嚥性肺炎と寿命)
- Merck Veterinary Manual (Pet Owner Version). "Pneumonia in Dogs."(液体の薬の飲ませ方と誤嚥・暖かく乾いた環境での療養)
- Lappin MR, Blondeau J, Boothe D, et al. "Antimicrobial use Guidelines for Treatment of Respiratory Tract Disease in Dogs and Cats." J Vet Intern Med. 2017;31(2):279-294. doi:10.1111/jvim.14627. PMC5354050(抗菌薬を使わない場合・入院中と退院後の薬・10〜14日までの再評価)
- Kogan DA, Johnson LR, Sturges BK, Jandrey KE, Pollard RE. "Etiology and clinical outcome in dogs with aspiration pneumonia: 88 cases (2004-2006)." J Am Vet Med Assoc. 2008;233(11):1748-1755. doi:10.2460/javma.233.11.1748(88頭のうち77%が退院)
- Tart KM, Babski DM, Lee JA. "Potential risks, prognostic indicators, and diagnostic and treatment modalities affecting survival in dogs with presumptive aspiration pneumonia: 125 cases (2005-2008)." J Vet Emerg Crit Care. 2010;20(3):319-329. doi:10.1111/j.1476-4431.2010.00542.x(125頭のうち81.6%が退院・炎症が肺の一部だけの犬は助かる割合が高い)
- Merck Veterinary Manual (Pet Owner Version). "Pulmonary Edema in Dogs."(肺水腫とは何か・起こる原因)
- U.S. Food and Drug Administration. "Keep Your Dogs and Cats Safe From Holiday Hazards."(骨や噛むおもちゃが胃や腸に詰まったときの症状と出るまでの時間・骨のかけらによるけが)